―White Memory―
――“聖華さん”
思わず崩れかけた笑顔を、無理矢理貼り付けて言う。
「…あたしは大丈夫、来る前に食べて来たから。」
「そっか。」
気付かれないよう、ぐっと唇を噛み締める。
そうでもしなきゃ、今にも泣いてしまいそうで。
灯吾には、泣いた顔なんて見られたくないから。
リンゴを食べる灯吾を、あたしはただ黙って見つめていた。
「聖華ちゃん。」
病室を出ると、タイミングよく灯吾のお母さんと出くわした。
あたしは小さく頭を下げ、笑顔を作る。
「ケガはどう?」
「おかげさまで、もう大丈夫です。」
本当は少し痛む。
でも、この心の痛みに比べたら全然マシだ。
あたしは退院したけれど、しばらく通院するように言われてる。
そして二人で廊下を歩いていると、お母さんは突然思い出したように喋り出した。
「そう言えば、聖華ちゃんのお友達、よく来てくれるわよ。」
「…友達?」
「ほら、あの子。美貴ちゃん、って言ったかしら。」