―White Memory―
あぁ、そうか。
美貴…本当に来てくれてるんだ。
「たまに大学のお友達も来てくれるし、本当に灯吾は幸せだわ。」
「…そうですね。」
そうなんだろうか。
本当に、灯吾は今幸せなの?
廊下を歩くあたしたちを、車椅子のおばあちゃんや、松葉杖をつく若い男の子が通り過ぎる。
じゃあ、この人たちも今、幸せなんだろうか。
「ねぇ、聖華ちゃん?」
足を止めたお母さんに、あたしも立ち止まる。
するとお母さんは優しく微笑んで
「落ち込まないでね。きっと灯吾は聖華ちゃんのこと、思い出すから。」
そう言ってあたしの手を両手で包み込んだ。
とてもとても優しい、灯吾のお母さん。
息子が、母親である自分さえ忘れてしまってるのに。
…辛いのは、あたしだけじゃない。
こんなにも簡単なこと
どうして気が付けなかったんだろう。
そんな自分が情けなくて
あたしは涙を零してお母さんへ顔を上げる。
「―――はい。」
笑ったあたしに、お母さんは灯吾に似た笑顔で頷いた。