―White Memory―
その日、病院を出てすぐのバス停で美貴に会った。
「何か久しぶりだね。」
大学は同じだけど
科が違うから、会うのは本当に久々で。
サークルのメンバーも灯吾が記憶を失ってから、あたしに気を遣ってか、集まることはなかった。
バスを一本見送り、二人でベンチに座る。
あたしはずっと美貴に言いたかったことを口にした。
「美貴、」
「ん?」
「何か…ありがとう。お見舞い、よく来てくれてるって。灯吾のお母さんから聞いた。」
あぁ、と笑って美貴は肩に掛けていたストールを上げて「気にしないで」と言った。
あの事故から、すでに1ヶ月。
季節は冬を深め、あたしの髪を冷たい風が撫でてゆく。
それを右手で押さえ、耳に掛けると美貴は落とすように呟いた。
「…灯吾くん、まだ…思い出さないね。」
「………。」
「でも、聖華が少し元気になったみたいでよかった。」
そして
「あたしに出来ることがあれば何でも言ってね。」
と眉を下げて笑った。