―White Memory―
コンクリートに
染みて消える雪は
病院に着いた頃、すでに止んでいた。
吐く息の白さに寒さを感じながら、あたしは慣れた病院の扉を潜る。
顔なじみになった看護婦さんに会釈をして、早歩きで灯吾の病室を目指した。
そして、『堀口 灯吾』と書かれたプレートを確認してドアノブに手を掛ける。
―――その時だった。
「ねぇ、灯吾くん。無理して思い出そうとしなくていいんだよ。」
聞き慣れた声。
………美貴?
それは確かに
美貴の声だった。
今日は日曜日。
大学だって休みだし、何より今は面会時間が始まったばかりの朝。
…こんなに早く来て、何話してるの?
そんな疑問を抱いたあたしは、病室には入らず、扉の前で息を潜めた。
すると、会話の続きが細々と聞こえてくる。
「…うん、だけどやっぱり思い出したいんだ。」
「でも、無理はよくないよ。」
「……そうだね。焦らずにゆっくり思い出してみるよ。」