―White Memory―
扉の前で立ち尽くすあたしを、通り過ぎる患者さんたちが不審そうな視線を投げて来る。
でも、あたしは動けなかった。
だって美貴…。
無理して思い出そうとしなくていい、と灯吾に言ってた。
まるで、灯吾が失った記憶を取り戻すことを拒んでるような…
そんな訳ないのに。
そんなはずないのに。
でも、あたしにはそうゆう口ぶりに聞こえて。
色んな感情が目まぐるしく脳裏を、胸を駆け巡ってゆく。
すると、また会話が聞こえて来て、あたしの意識は再び灯吾の病室に向けられた。
「…どうして嘘つくの?」
「え?」
「あたし、本当は知ってるんだよ…。灯吾くん、いつもアルバム見たり、お母さんに自分のこと聞いたりしてる。今だってそうだったじゃない。」
…知らなかった。
灯吾がそんなに思い出そうとしてたなんて。
嬉しい反面、どうしてそこまで美貴が知ってるのか、また疑問が生まれる。
この前、バス停で会った時は何も言ってなかったのに。
…何で?
と、次の瞬間
美貴の声が大きく病室から漏れた。
「そんなに聖華が大事?」