―White Memory―
――もっと早く
気が付くべきだった。
灯吾が記憶を失した時から
きっとあたしたちは終わってた。
灯吾が思い出せないのも
もう、あたしが必要じゃなくなったから。
だから、過去を
思い出を捨てたんでしょ?
なら、あたしは消えるしかないじゃない。
なんてことはない。
だって、灯吾の記憶から消えてしまったなら、今あたしが居なくなっても
彼からしたら、何も変わらない。
繋ぎ止めても
そこに意味なんてない。
あたしが灯吾の傍に居る理由はもう、ないんだから。
「……あ、」
美貴と別れ、家に向かうと
止んだはずの雪があたしの頬に触れる。
見上げれば、雪はあたしの目元にふわりと落ちた。
――捨てよう。
あたしも
捨ててしまうんだ。
優しいだけの思い出なんて、あたしには必要ないの。
あなたが捨てたように
あたしも、全てを真っ白にするよ。
…あの日。
クリスマスに二人で見た、あの雪景色のように。