―White Memory―
『…行って、聖華。』
走り出す。
『灯吾くんは、聖華を待ってるよ。』
ただ、ひとつの想いを抱えて。
病室の扉を開けると
眩しいくらいの朝日があたしを照らし出した。
そして、静かな寝息を立て、瞼を閉じる灯吾の横顔。
一歩ずつ病室へ足を踏み出す度、わけもわからず涙が零れて。
「…灯吾、」
ベッドの横に立ち、そっと頬に触れると、灯吾の瞼が少しだけ揺れた。
「…んん、」
薄く開かれた瞳が、あたしを見上げる。
そして驚いたように目を見開くと、「え?えっ!?何で!?」と灯吾は慌ただしく体を起こした。
「何で聖華さんがここに、」
「…何で、って灯吾が呼んだんでしょ?」
手紙、と付け加えると
灯吾は納得した後、少しだけ間を置いて呟く。
「…もう、来てくれないのかと思った。」
眉を下げ
安心したように笑う灯吾。
灯吾の笑顔は変わらない。
…今も、昔も。
記憶なんかなくても
灯吾は、変わってなんかない。