心の距離
会社の前を通ると、事務所の電気がついていた。

駐車場を覗き込むと、仕事で使う車は全て揃っている。

…また思い出しそう…

ふと頭に過ぎったが、電気を消し忘れた可能性もある。

恐る恐る事務所に入ると、彼女がパソコンに向かっていた。

「…お疲れ様です」

「お疲れ様です。忘れ物ですか?」

チラッと僕を見た後、パソコンに視線を向ける彼女。

「電気、消し忘れたのかと思って…もう9時過ぎてるし」

「そうなんですか。大丈夫ですよ」

手を動かしながら淡々と話す彼女。

自分が避けるような態度を取ったせいなのに、凄く居た堪れない気持ちになっていく…

「あ…あのさ…」

「早く帰った方が良いですよ?誰かに見られたら、誤解を招きます」

小さく告げながらプリンターに向かう彼女。

彼女の存在を、夢の中だけと思いたい自分と、夢の中だけと思いたくない自分。

彼女の小さな背中を眺めながら、ポケットの中で拳を強く握り締めた。

「…前にもこんな事あったよね。ことみがソファで寝てて…」

「誰かに聞かれたらどうするんですか?呼び捨てにしないで下さい」

プリントアウトされた用紙を手に、冷たく言い放ちながらデスクに戻る彼女。
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