心の距離
会社に着くと、真直ぐ事務所に向かった。

彼女が視界に入った瞬間、夢の中で悩ましい表情をしていた彼女が脳裏に過ぎった。

彼女が視界に入らないようにしながら小さく告げた。

「…おはようございます」

いつもより明らかに低いテンションのまま挨拶をし、タイムカードを押した。

「おはよう。瞬、顔色悪いぞ？二日酔いか？」

不安そうに聞いてくる社長。

「…はい。薬貰います」

彼女のデスクの横にある薬箱を開けると、彼女は自分のポーチから、スッと胃薬を差し出して来た。

「…ありがとうございます」

小さく呟くように告げ、事務所を後にした。

給湯室に入り、彼女から貰った胃薬を流し込むと、ヒールの音と共に、彼女が給湯室に入って来た。

「…視界に入れるのも嫌？」

自分のマグカップに、コーヒーを入れながら聞いて来る彼女。

夕べの夢のせいだなんて言える訳が無い。

夢の中で体を重ねていたなんて、口が裂けても言えない。

何も答えられないまま、グラスに入った水を一気に飲み干すと、彼女は大きくため息をつき、黙ったまま給湯室を後にした。

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