心の距離
移動の事も、自分の気持ちも、全てを話せたら楽なのはわかってる。

わかっては居るけれど、何も伝えられない自分。

彼女の事を考えれば考える程気持ちが滅入り、伝えようとすればする程、何も言えない自分が嫌になる…

仕事を終え、タイムカードを押す為に事務所に入ると、彼女は逃げるようにマグカップを手に、給湯室へ向かってしまった。

『視界に入れるのも嫌?』

彼女の言葉に何も答えられなかった事が、彼女の中で暗黙の了解と取られたのだろう。

この日から、出勤時も退勤時も、僕が事務所に入ると、何処かへ逃げ出してしまう彼女。

彼女に逃げられてしまう度に気持ちが滅入り、彼女を追いかける事すら出来ない事に、どんどん憂鬱になっていく…

憂鬱な気持ちをぶつけるように、大量のビールを胃の中に流し込み、彼女の夢を見ては途中で目が覚め、二日酔いの状態で仕事をする毎日。

こんな僕の状態を、全てを知っている社長と春樹さんは、呆れた表情で僕を眺め、何も知らない母親とヒデ達は、心配そうに見て来る毎日。

呆れる視線と、心配そうな視線の二つは、僕を更に憂鬱にさせるだけだった。
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