心の距離
猫を洗い終えた時には、浴室内は散乱し、自分もびしょ濡れの状態。

Tシャツを脱ぎ捨て、猫を片手に、リビングに居る母親を呼んだ。

「母さん!ことみあがったよ!」

なかなか現われない母親に、苛立ちながら怒鳴りつけた。

「母さん!ことみ出た!早く来てよ!」

ゆっくりと開いた脱衣所の扉。

扉が開いた瞬間、バスタオルを持つ姿に、体が固まった。

「…ことみちゃん?何で家に?」

「…肉じゃが作ったから、持って来たの。真理子さん、買い物行っちゃった…猫ちゃん、おいで」

恥ずかしそうに微笑みながら、バスタオルで猫を包み込む本物のことみ。

想定外の出来事に、体の中に残っていたアルコールが吹き飛んだ。

簡単にシャワーを浴びた後、リビングに向かうと、彼女はドライヤーで猫を乾かしていた。

少しだけ楽しそうに猫を撫でながらドライヤーをかける彼女と、気持ち良さそうに彼女に身を委ねている白い猫。

猫に対しても、強い嫉妬心が沸き上がった。

「…俺がやるよ」

「大丈夫ですよ。猫ちゃん、気持ち良い?」

「俺がやる」

苛立ちながら彼女からドライヤーを奪い取ると、猫は半乾きのまま、慌てて逃げてしまった。

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