心の距離
実家へ帰っても、これと言ってやる事も無く、ビールを飲み続け、酔い潰れる始末。

酔い潰れてしまった後は、必ず夢の中に彼女が現われた。

夢の中だけでも良い。

夢の中だけでも、彼女を近くに感じる事が出来たらそれで良い。

夢の中ではそう思っても、目が覚めると、尋常では無い程の虚しさと吐き気に襲われた。

…あんなに心の距離近付けたかったのに、俺、ホントにダメ男だな…

トイレで咳き込みながら、頭に過ぎった言葉。

言葉に押し潰されそうな思いのまま、シャワーを浴びようとすると、母親が話しかけてきた。

「瞬、暇なら琴ちゃん洗ってくれない?」

「は?俺が?」

「一緒に入ってくれれば良いから。琴ちゃんが出る時に呼んでね」

そう言いながら、無理矢理渡された白い猫。

ため息をつきながら渋々浴室に入り、猫にシャワーをかけた。

尋常では無い程の雄叫びをあげながら、逃げ回る猫の琴。

二日酔いの頭に、浴室内に響き渡る雄叫びは、有り得ない程の頭痛を招いた。

「…うるせぇな!暴れんじゃねぇよ!ことみ!黙ってジッとしてろ!」

八つ当たりとはわかってる。

でも、怒鳴りつけながら猫を洗っていると、何故か胸の奥が少しだけスッキリした。
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