心の距離

願望

彼女の夢を見たいと思うと、彼女は夢に現れず、彼女の夢を見たくないと思うと、彼女は夢に現れる日々。

何度夢に出て来ても、彼女が声を発する事は無く、ただ笑顔で僕の話を聞いているだけ。

彼女をはじめて見てから3ヶ月が経ち、彼女の休みの曜日と名字もわかり、彼女はバイトの中で一番長い人になってしまった。

従業員の入れ替わりが激しい店なのは知っていたが、入ってたったの半年で、バイトリーダーになってしまった彼女。

いつものように店に行くと、彼女は騒がしい店内で、声を上げながら新人の江川さんに仕事を教えていた。

微かに聞こえる彼女の声。

必死で彼女の声を記憶しようとしている自分が居た。

もっと近くで彼女の声を…

もっと静かな場所で彼女の声を聞きたい…

小さな願いを叶える為に、スロットでは無く、パチンコを打ちはじめた。

パチンコなら、大当たりを引く度に従業員が箱を交換しに来る。

従業員が近付く回数が増えれば、彼女が近付く確率も自然と増える。

彼女が近付く確率が増えれば、彼女の声を近くで聞く事が出来る。

笑える程、単純過ぎる考えだが、今の僕には彼女に近付く精一杯の行動だった。


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