心の距離

夢と現実

食事を取った後、シャワーを浴び、彼女は当たり前のように夢に出て来た。

いつもは肩を並べて話しているだけなのに、この日の夢は彼女の小さな体を強く抱き締め、唇を重ねようとしている夢だった。

僕の首に腕を回し、踵を上げている彼女。

「好きだよ。ことみ」

唇が重なる直前に告げた、自分の言葉で目が覚め、大きくため息をついた。

…今好きって言って無かったか？嘘だろ？マジでどうしたんだよ？頭おかしくなりそう…

夢を意識すればする程彼女が気になり、彼女の顔を見る度に、視線は唇に落ちていく。

…あのまま目が覚めなかったら…

そう思った時には数日が過ぎ、夢の続きを見れない事と、話しかける事が出来ない自分に、苛立ちすら覚えた。

苛立ちながら店に向かうと、店の前に貼ってあったポスターを剥している彼女の後ろ姿が視界に飛び込んだ。

必死で背伸びをしながらポスターを剥している彼女。

…ポスター、頭に落ちないかな…

丁寧に剥す事を諦めたように、勢いよくポスターを引っ張ると、ポスターは彼女の頭に力無く覆い被さり、小さな体はデカいポスターに包まれてしまった。

期待通りの行動に苛立ちは吹き飛び、凄く癒されている自分。