心の距離
店の前に居るヒデを見付け、大きく深呼吸をし、焦る気持ちを抑えながらヒデに歩み寄った。

「よう。早くね?」

タバコを吸いながら聞いてくるヒデ。

「ちょっとな。入らないのか?」

「今出て来るよ。別の場所にしようってさ。梨恵って本当に気まぐれだよなぁ…マジで参るよ」

店の自動ドアが開いただけで、緊張が全身に駆け巡り、無意識のうちに体中に力が入った。

梨恵の後ろを歩く女性を見た瞬間、全身の力が抜け落ち、足元が崩れ落ちる感覚に襲われた。

うつむきながらゆっくりと歩み寄って来る江川さんを眺めながら、小さくヒデに聞いた。

「…なぁ、ことみちゃんって言って無かったか?」

「言ってねぇよ。ひろみちゃんって言ったよ?ことみちゃんが目当てなのか?」

「いや…10万勝った時のお礼が出来ると思っただけだよ…来た意味無いから帰る」

「ちょっ!ちょっと待てって!それはひろみちゃんに失礼だろ?」

「関係ねぇよ。帰る」

走って来た道を歩き出そうとすると、梨恵のふてくされた声が耳に飛び込んだ。

「ちょっと~、ノリ悪過ぎない?これだから瞬は、女出来ないのよ~」
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