心の距離
ただでさえ、聞き間違った事に腹が立って居るのに、梨恵の言葉は耳に余り過ぎる。

しかも、目の前に居るのは会いたい人では無く、会いたくない人。

黙ったまま二人を睨み付け、ゆっくりと歩き出した。

しばらく歩いていると、背後から駆け寄る足音が聞こえ、江川さんの慌てた声が耳に飛び込んだ。

「ま、待って下さい!」

ため息をつきながら足を止め、顔を向けると、真っ赤な顔をした江川さんの姿が視界に入ってきた。

「何?」

「あ…あの…本当にすいませんでした…」

頭を下げながら見覚えのある紙を差し出され、恐る恐る手を伸ばすと、自分の字で携帯の番号と名前が書いてあった。

「…これどうした?」

「あの…神田さんの…スクーターのポケットに入れるの見て…」

「パクったのか?」

「本当にすいませんでした」

深々と頭を下げる江川さんに対し、ただ苛立ちが募るばかり。

苛立ちを押し殺すように紙を握り締め、歯を食いしばりながら小さく告げた。

「…マジでなんなんだよ?どんだけ彼女からの電話待ってたと思ってんだよ…ふざけんじゃねぇぞ…」

「…神田さんの携帯番号教えたら許してくれますか?」

「そう言う問題じゃねぇだろ?」
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