心の距離
黙ったまま、僕のシャツを握り締める彼女。

「そいつ誰だよ?」

男の言葉に、ため息混じりに答えた。

「彼氏。お前は?」

「彼氏。まぁ良いや。行こうぜ」

さっさと何処かに行こうとする男。

「…大丈夫だよ。帰るまで彼氏の振りしてあげる」

彼女の耳元で小さく囁き、彼女の手を握りながら男の後を追いかけた。

平然と建物に入って行く男の後を追い、エレベーターに乗り込んだ瞬間、彼女は小さく体を震わせながら腕に抱き付いてきた。

腕に伝わる彼女の鼓動。

…すげぇ怯えてる?緊張してるのか?心音が半端ない…

不思議と腕に抱き付かれている事も、彼女の胸の膨らみも気にならなかった。

ただ一つだけ気になるのは、激し過ぎる彼女の鼓動。

運動をした後でも無いのに、彼女の鼓動は落ち着き無く腕に伝わって来るのに対し、僕は奇妙な程落ち着いていた。

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