心の距離
エレベーターを降りると、男は慣れた感じで居酒屋チェーン店に入って行った。

店員に案内され、個室の場所を確認した後、彼女をトイレに誘い出した。

トイレの脇にある自販機でタバコを買いながら、彼女に切り出した。

「本当にアイツが彼氏?」

「いえ…元彼です…」

「あれがサトくんって奴か…殴って来るかと思ったけど…いきなり居酒屋って、アイツ何考えてるの?」

「…飲みたいだけだと思います。…たまにしか日雇いの仕事しかしてないし、ネカフェ難民だから、お酒飲めないらしいんで…」

「そうなんだ。いつも奢ってるの?」

「はい…後で全部話します」

「わかった。敬語やめようね。帰るまでは恋人同士なんだからさ」

「はい。あ、うん…」

小さく笑いながら彼女の頭を撫で、手を繋いだまま席に戻った。

彼女の隣にピッタリとくっついて座り、メニューで二人の顔を隠した。

「何にする?」

「うーんと…」

小さく答えながらテーブルの下で携帯を弄り、画面を見せて来る彼女。

不思議に思いながら携帯の画面を覗き込むと、メール画面が開いてあった。

‘下の名前何でしたっけ?’

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