心の距離
月曜になり、会社に向かおうと歩いていると、背後からヒールで駆け寄る足音が聞こえた。

「おはようございます!」

耳に飛び込んできた愛しい声。

「…おはようございます」

足を止める事も無く、小さく告げながら横目で彼女をチラッと見た。

「…風邪ですか?」

不安そうに聞いてくる彼女。

真直ぐ前だけを見ながら、小さく答えた。

「いや…違いますよ」

「…元気無いですね」

「そんな事無いですよ」

「…腕枕したから?」

「その話はやめよう。誰かに聞かれたらヤバい」

「だって…」

「遅刻するよ」

彼女の言葉を遮り、黙ったまま会社に向かった。

僕の少し後ろを歩く彼女。

傷付けたくは無かったが、避けるような態度を取る事しか出来なかった。

会社に着き、タイムカードを押した後、彼女は寂しそうな表情を浮かべながらパソコンに向かった。

…いくらなんでも、あんな態度は無いか…

ほんの少しの後悔を胸に、彼女に歩み寄ろうとしたが、ここは事務所。

社長の前で話しかけるのも気が引けるし、他の社員に見られたくない。

何より、ヒデに見られたら、物凄く面倒臭い事になるのは目に見えてる。
< 98 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop