心の距離
憂鬱
帰宅後、移動の事を母親に話し、強く口止めをした。

「何でヒデとことみちゃんに話しちゃいけないの?」

「…ダメなモノはダメなんだよ。あの二人には、自分から直接言うから」

心にも無い事を告げ、部屋に逃げ込んだ。

ベッドの上で気持ち良さそうに寝る猫。

深呼吸をした後、ベッドに潜り込み、猫の頭の下に腕を忍ばせた。

…起きる時間だよ。ことみ…

猫を眺めながら心の中で告げ、大きくため息をついた。

翌日、春樹さんから売って貰った車で、移動先の会社近くにある不動産に向かい、紹介された1Rの部屋をすぐに契約した。

間取りが気に入った訳でも無く、会社から近い訳でも無い。

新しい家からほんの少し遠回りをすれば、朝日の見える海を通り、会社に向かう事が出来る場所だから、すぐに契約をした。

…夢から覚める準備か…

帰りの車の中で、ふと頭に過ぎった言葉。

夢はいつもあっけなく終わってしまう…

夢は結末を見る事も無く、終わってしまう…

彼女への思いも、夢と同じように、結末を見る事も無く、あっけなく終わらせてしまいたかった。
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