僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「……た、大雅先輩がどういう人か……」


やっと口を開いたあたしに志帆先輩は顔を上げたけど、やっぱり堅い笑顔のままだ。


「知ってる。一部の男子と裏で悪いことしてたのも。知ってて、追っかけてたから」

「……」

「うまく言えないんだ。いつ、どこに惹かれて、どこが好きだったのか」

「……いつの間にか」


ぽつりと吐き出した言葉は、志帆先輩への同調。


「いつの間にか……気付いたら好きになってた。……あたしは、そうでした」


志帆先輩は形容しがたい表情に変わり、今度はあたしが視線を落とす番だった。


うまく言えない。
あたしも、そう。


彗のどこに惹かれて、どこが好きなのか。考え出せば、言い出せば、キリがないけど。どれもぼんやりしていて、上手に伝えられない。


ただ、あの人の纏う空気が。一緒にいる時間が、どうしようもなく愛しく思う。


見つめているだけで、想いが溢れるの。


「……有須?」

「な、なんでもないです……っ!」


浮かんだ涙を隠すように、慌ててカーディガンの裾で目を覆った。


「え? なんで?」


困惑する志帆先輩に返せる言葉がない。何を、誰を考えて涙が浮かんだのか、とても曖昧だから。


――あたしが持つ気持ちは、志帆先輩にもあったんじゃないかなって。きっと凪にも……あるんだろうなって。


あたしがふたりのように、彗への気持ちが薄れていくのは、なかったことにするのは、とても苦しいと思ったの。嫌だと思ったの。



「……ごめんなさい」

「……なっ……なんで有須が謝んの!?」


強く首を横に振って、奥歯を噛み締めた。


あたしが謝っても、おかしくないと思いたい。


志帆先輩だって苦しかったと思うから。恋は理屈じゃない。その意味が、なんとなく分かった気がしたから。


「あたし……っどんくさいし、周りを苛立たせるし……悪いとこ、いっぱいあるんです。だけど……」


だけど、って……。自分が何を言いたいのか分からない。それでも今伝えなきゃ、もう二度と言えないと思った。

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