僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「鍵、あたし返しに行くから」
「……でも……」
ああバカ。ここは素直にありがとうございますって言うべき……。
「いいから。あたしカイロ取りに来ただけで、人待ってなきゃいけないんだ」
「……お友達ですか?」
思わずそう尋ねてしまったのは、志帆先輩が少しだけ微笑んだから。そう思ったんだけど、すぐ余計な詮索だったかと思い直して焦る。
「す、すみませんっ」
「……別に。友達ってか、気になる人だけど」
……え? 気になる……人?
「そ、それは……」
つまり、大雅先輩ではないってことだよ、ね…?
どう反応すべきか思い惑っていると、志帆先輩は視線を泳がせてから、あたしを見つめた。
「ごめん……って、今さらだよね」
「……」
「……ずっと、避けてたし。今さらだけど、ごめん。ひどいことして」
ごめん。その言葉の理由はすぐに分かったけど、やっぱりどう反応すべきか迷って口を噤んでしまう。
「……あたしさ、1年のときから大雅先輩のこと追っかけてて。特定の彼女作んないの分かってたから、有須にマジなんだなって気付いて……焦ったとかじゃないんだよね、多分。ただ最初は悔しくて……けど、気付いてたらあぁなってた」
……それは分かってた。
大雅先輩がどうとかじゃなくて、単にあたしという人間が嫌悪の対象でしかないってこと。
だけどそれは、あたしにも非があった。
あたしは100%悪くないなんて、そうは思わない。……だからかな。謝られても、戸惑ってしまうのは。
「ある日いきなりさ、知らないはずなのに……有須にもう関わるなって。ごめんって、大雅先輩に言われたの。それでなんとなく、あたし利用されてたんだろうなって分かったんだよね」
視線を落としたまま苦笑する志帆先輩の姿に、無性に胸が痛くなった。
だってあたしは、志帆先輩が大雅先輩を好きだった事実を知らなかったわけじゃない。