僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「じゃあ……あたし行くから」
「あ、はい! 鍵、ありがとうございますっ」
軽く頭を下げると、志帆先輩は微笑んで立ち去って行く。その背中を見てまだ少し遠く感じたけれど、苦しくも寂しくもなかった。
ほんのちょっとだけ、歩み寄れた気がした。
「……」
あたしも早く行かなきゃ……!
志帆先輩の姿が見えなくなってやっと、自分も人を待たせていることを思い出す。
「昨日の敵は今日の友? ……だっけ?」
前へ進もうとした体を止めたのは、背後から聞こえた馴染みある声のせいだった。振り向くと、そこにあるのは部室棟の階段だけ。
階段下の空間にでも隠れていたのか、ひょこっと顔を出したのは、やっぱり夜が似合う男の子だった。
「チカ! どうしてここに……!?」
「彗も祠稀もダメになったから。代わりに僕が迎えに来たんだよ」
「そ、そうだったんだ……」
単純にびっくりした、ほんとに。
「それにしても公立って簡単に入れちゃうんだね。ビックリしちゃった」
あたしの目の前まで歩んできたチカは、パーカーのフードを被りながら辺りを見渡す。
「入ってきちゃダメだよ! 見つかったら怒られちゃう……!」
「そう? 一応意識してこの服選んだんだけどな」
「と、とにかく行こう!」
チカの腕を引っ張り、グランドを照らすライトや体育館から漏れる光を浴びながら校門に向かった。
チカの変装や辺りに人が少なかったせいもあり、何事もなく校門を出ると安心の溜め息が漏れる。
「有須ってビビりだよね」
「そうだと思う……」
チカは堂々と入ってきたんだろうなぁ。中学生なのに肝が据わって……あれ?
「ご、ごめん……!」
「何いきなり」
「受験生だよね……! ごめん、あたしひとりで帰れるのに!」
「なんだ、そんなこと。いいよ別に。1日中家に籠って勉強なんて、性に合わないもん」
そう言いながら、チカは無邪気に笑った。