僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「ねぇ、さっきの先輩ってアレでしょ? なんで許したの?」
冷たい風にマフラーを直していると、突然チカがそんなことを言い出す。
そういえばさっき、昨日の敵はなんとかって……あ、そっか。
「大雅先輩のこと調べたのって、チカたちだったんだね」
「つまらない仕事だったよ」
わざとらしく肩を竦めるチカに笑って、あたしは「そうだなぁ……」と質問の答えを考える。
「部活、楽しくやりたいからかな」
ふふっと笑ったあたしにチカは目を見張って、すぐに呆れたように首を捻った。口の端は、上がっていたけど。
「階段の下にいたなら、あたしと志帆先輩の会話は聞こえてたでしょ?」
「まぁね」
聞こえてたってより、盗み聞きだけど。そうチカは付け足し、空を見上げる。つられて見上げると、不規則に星が瞬いていた。
「……自分と誰かを天秤にかけたこと、ある?」
「え……?」
隣に視線を移すと、チカはまだ星空を見上げたまま言葉の続きを話し出す。
「僕はあるよ。祠稀に出逢うまで、誰よりも僕がいちばん不幸だと思ってたから」
「……」
「でも、無駄なことだなって……優劣を付けたところで、何も意味がないなって、祠稀に出逢って思うようになったんだ」
ゆっくりと星空から地面へ視線を落とすチカは、きっと“ふつう”の14歳とは遠い生き方をしてきたんだろうと思う。
だけど……ふつうってなんだろうとも思う。
「天秤にかけて、あの子よりマシだなって思っても、この人より僕のほうが最悪だって思っても、何も変わらないでしょ?」
「……自分と相手は違うから?」
「そう。僕には僕のつらさとか苦しみがあって、その人にはその人の傷や闇があって。比べていいものじゃないんだ。優劣をつけたところで、僕は嬉しくもないし幸せでもないし、救われもしない」
どうして今そんな話をするのかということよりも、今はチカの話を聞きたいと思った。聞いてあげたいと、思った。