僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


エレベーターがこんなにも遅いと感じたのは、初めて。


凪が家を出てったことを告げられ、放心するあたしの背中をチカは強く押してくれた。


振り向いたけれど言葉はなくて、ただ困ったように笑っているチカは、きっとあたしと同じ気持ちだったと思う。


それでもあたしの背中を、押してくれたんだ。


「……凪……」


どうして――…。


額を覆うあたしの手には、携帯。本当は電話をかけようとしたんだけれど、1件のメールに嫌な予感がした。


受信時刻は部活が終わった頃。いつもなら、彗か祠稀と帰ろうとしてる時間だ。


≪この前言ったこと、嘘だよ。≫


たったそれだけのメール。嘘なんて山ほどつかれたけど、この前と言ったらサヤが颯輔さんだと分かった夜しかない。


凪が出て行って、わざわざあたしに嘘だと告げるものはたったひとつしか考えられない。


『ねぇ有須。あたしは、彗を手放さない。誰にもあげないから』


「……っ」


壊れそうなほど強く携帯を握って、歯を噛みしめた。行き場の感情が悲しみなのか怒りなのか、次々溢れる想いのせいで分からない。


7階に着いた音が耳に入り、開いたドアに鞄をぶつけながらエレベータを降りた。


どうしよう……凪はどこに行ったの? 彗は、今家にいるの? 祠稀は、何してるの?


みんなどんな顔で、どんな気持ちで――…。


家の鍵は開いていた。そのまま中に入り、ローファーも乱雑に脱ぎ捨て廊下を進む。気持ちが急くたび、歩行速度も上がった。


みんなのの姿を確認したいという想いが強く、勢いよくリビングに続くドアを開けた。


目に飛び込んできたふたりに泣きそうになったのは、「おかえり」と口をそろえて言われたから。


「……た、……」


――ああやっぱり、凪は本当に出て行ったんだね。

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