僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「当たり前に、僕がかわいそうだと、つらかったんだろうなって枢稀は思ってるんだ、きっと。だから慰めてくれようとしてる。謝りながら、同情しながら、僕の頭を撫でる」
寒空の下を歩きながら、相槌を打つわけでもなく、チカの声を聞いていた。
「……それってある意味ひとつの優しさで、僕を大事にしてくれてるんだって伝わるから。僕は同情なんて嫌いだけど、枢稀のだけは受け入れられる」
「……」
「ていうか……昔の話をする時点で、僕が優しくされることを望んでたのかもって思ったんだけどね。あんまり認めたくないのも正直な気持ち」
横断歩道の信号が赤になるのが目に入って、あたしとチカはほぼ同時に立ち止まる。マンションはもう、すぐそこだ。
「――…それ、本当?」
疑ってるわけじゃない。訊く声が震えたのは、もっと強く信じたくて。
「僕は枢稀の行動を、そう思えるようになったんだって話だよ」
じゃあ、あたしも、凪にそんな風に思ってもらえるようになるかな?
それはあたしの伝え方と、凪の感じ方の問題だから訊かないけど。自分がすべきことは、見えてきたかもしれない。
「行こ」
信号が青になって、先に1歩進んだチカに続く。足取りは決して軽くはないけど、重くもないまま、マンションへと進んだ。
車寄せが確保されたエントランス棟まで来ると、あたしはチカと向き合う。
「送ってくれてありがとう。ご飯食べていかない? 祠稀たちも会いたいと……」
言葉の途中でチカが首を振るから、あたしは小さく「そっか」と打ち切った。
「それより……ごめん、けっきょく最後になっちゃった」
眉をハの字にして笑みをたたえていたチカの表情が、途端に申しわけないものに変わる。
「何が?」
あたしより少し高い身長のチカが紡いだ言葉。
「凪が家を出てったんだ」
それは大きな濁流のようで、小さな雨音のようでもあった。