僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
微かに寝息を立てる彗は、本当にかわいい。顔のパーツが整っていて、綺麗と言ったほうがいいかもしれないけど、あたしにはいつだってかわいく見える。
伸びて邪魔くさそうな彗の前髪を梳いて、寝顔を覗いた。滑らかな頬に触れても、起きる気配はない。
「……」
胸が痛んだ理由も、涙が浮かんだ理由も、分からなかった。分からないふりをしたのかもしれない。
「……待ってて、彗」
きっと、必ず、あたしは笑顔で帰ってくるから。
彗の丸まった背中に毛布をかけ、部屋を出た。
リビングに戻ると、スーツ姿のままサヤがソファーに座っていて、あたしに微笑む。その近くで緑夏ちゃんが、サヤとあたしの分のココアをテーブルに置いていた。
「顔色、よくなったね」
「おかげさまで退院できました」
ネクタイを緩めながら言うサヤに、あたしも冗談混じりに返しながらソファーに腰かける。
「ありがとう」
サヤにそう言われて、立ち上がった緑夏ちゃんは静かな笑みを見せてから、あたしにも視線を向けた。
きっとリビングを出ていく彼女は、とても優しくて、強い。
「おやすみ、凪ちゃん」
今からあたしがサヤとふたりで話す内容を分かっていて、笑顔を向けてくる。
以前のあたしなら、そんな笑顔をめちゃくちゃにしてやりたかった。サヤに愛されてると知っている彼女が、疎ましかった。
「おやすみ。……ココア、ありがとう」
微笑んでリビングを出て行く緑夏ちゃん。
憎かった。本当に、どうしようもないほど。
だけど、彗やサヤと過ごした特別な時間があったように、あたしは緑夏ちゃんと過ごした時間もあった。
憎かった。だけど、好きだった。
そんなことも忘れていた自分。受け入れることも、向き合うこともしないまま、憎むことしかできなかった。
そんなんじゃ前に進めないのに、何も変わらないのに。
心を擦り減らすだけじゃ、ダメだ。
緑夏ちゃんが出て行ったドアから、サヤに視線を移す。何も言わず微笑むだけのサヤに、あたしは何を伝えよう。
伝えられずにいたことの半分も、口にできるか分からないけど。
「サヤ、あのね――…」
今のあたしが言えることを、サヤは全て聞いてくれるのは、分かった。