空をなくしたその先に
「下船したら新しいお召し物を用意しなければなりませんね」
「誰の?」

「ダナ様の、でございますよ」

「……いらないわよ」


「いけません。

美しく装うのは、女性としてとても大切なことなのですよ」


開け放った扉の向こう側から

二人の声が聞こえてくるのに耳を傾けながら、

ディオは居間のソファに身体を預けていた。


先ほどまで二人の周囲をうろうろしていたのだが、

ディオの身分を知っているファイネルが手を出させるはずもなく。

ダナの方はといえば「邪魔」の一言で、

ディオを完全に撃沈させたのである。

相変わらず着たままの上着の上から、
ディオは内ポケットを押さえる。

ようやくここまで来た。

それでもまだ道のりの半分というところではあるが。

ファイネルが目を配ってくれたからなのか、

上級の客室は元から警備が厳重なのか。

あれから部屋が荒らされることはなく、
無事にマーシャルに入港しようとしている。
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