空をなくしたその先に
……本当に?

何かにそう囁かれた気もするが、ダナはその感情を追い払い、本に没頭しようとする。

ロマンス小説なんて面白いはずがない。

そう思っていたはずなのに、

気がついたら王子と平民の娘の身分違いの恋にすっかりのめりこんでいた。


「イレーヌのロマンス好きにもまいったもんだよな」


ビリヤードの球を並べながら、フレディがぼやいた。


「何度言っても、この列車にそれ以外の本を積む気にならないらしいんだ」

「そんなに何度も乗っているんだ?」

「そうだな、これで三度目か」


二人の関係は、ディオが思っていたのよりも深いのかもしれない。

ビリヤードは得意ではないし、球を突くような気分でもない。

ディオは壁にもたれて、フレディが球を突くのを見ていた。

小気味いい音がして、球がポケットに吸い込まれるように落ちていく。

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