空をなくしたその先に
「……わかってるよ」


王の結婚に愛情なんて必要ない。

それはディオにだってわかっている。

彼の両親がそのいい例だ。

五十歳にもなって、自分の半分の年齢の花嫁を迎えた父。

自分の父親と同じ年代の男の元へと嫁いだ母。

夫婦仲がうまくいっていて、それなりにあたたかな環境で育てられたのは運が良かったのだろう。


「とりあえず、だ」


再び球を集めながら、フレディは言った。


「お前は無事に戻ることだけ考えろ。

いざとなったら彼女を捨て駒にしても、だ。

彼女の方はそれを理解しているぞ?」

「……」


台の上に球を並べて、フレディはにやりとした。


「そういうわけで、彼女は俺がもらう」

「なんだよ、それ。彼女の意志は?」

「そんなもの関係ないさ。彼女が俺の魅力に気がつけばあっという間だろ?」


自信満々なフレディの言葉に、憮然としてディオは壁に背を預ける。

球を突く音と、フレディの笑い声だけが娯楽室に響きわたっていた。
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