美女の危険な香り
 と言って、慌しく歩き出す。


 レシートを受け取るのを忘れてしまうぐらい、俺は香原財閥と大磯グループの連携を気にし続けていた。


 まるで憑(つ)かれたように。


 俺は自分の今の状態が、とてもじゃないが、部下たちの業務報告を聞きに会議に出席できるとは思えない。


 だが、ふっと考えてみると、仮に香原財閥に大礒健介が養子で入ったとしても、今井商事に直接的な影響が来るとは感じられなかった。


 信太郎は俺と優紀子を結婚させることで、財閥間の均衡(きんこう)を保ちたかったのかもしれないが、それも今となっては失策だ。


 俺はいつも思っていた。


「オヤジはとんでもないヘマをやらかしたな」と。


 俺はホントは大学では経済学ではなく、文学や文芸などを勉強したかった。


 自分自身に商社を切り盛りしていくだけの素養がないと思っていたし、高校三年次で進路選択する際に、文学部や芸術学部へ進むことを考えてもいたのだ。

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