美女の危険な香り
 ただ、信太郎からは常にきつく言われていた。


「お前はこの会社の跡継ぎなんだぞ」と。


 元々適正がない人間に向かない職業をやらせること自体、無謀だろうなと思う。


 今になって考えてみれば、だ。


 それに俺は仕事上たくさんの資料を読むし、経済紙などにも一通り目を通すが、夜寝る前などはベッド上で読書灯を灯(とも)して、小説などを読んでいた。


 最近自分が妙に漱石や鴎外など、明治の古典に嵌まっているのが分かる。


 俺はいずれ、自分が社長業をやる傍ら、創作などをしてもいいかなとすら感じていた。


 まあ、家に帰るのが億劫になってしまうのは仕方ないのだが……。


 社ビルへ戻ると、古雅と高橋が来ていた。


「社長、一応スタンバイしててください」


 古雅が開口一番そう言う。


 俺は頷き、
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