美女の危険な香り
このトップダウン方式は先代からほとんど変わっていない。
俺は小さい頃、信太郎が自宅に大量のワープロ打ちの文書を持ち帰ってきて、具(つぶさ)に目を通している光景を見たことがある。
考えてみれば、徒手空拳(としゅくうけん)で戦後の日本において今井商事を興(おこ)し、その事業でたった一代をもって財閥の主となった信太郎は完全な仕事人間だった。
俺はそんなことを薄っすらとではあるが覚えていたのだし、実際自分の歩んでいく人生が本来なら自由であるはずなのに、大学を卒業してから香原財閥の一人娘の優紀子と結婚させられ、今は大磯グループのドンである龍造の悪だくみに人生を狂わされるような思いをしている。
だが、香原財閥に健介が養子として入れば、ガンで死の床にある洋平はどう言うだろうか……?
快く、自分の作り上げた王国の継承者を出迎えるのか、それとも見放してしまうのか……?
俺は洋平には優紀子が興じる誠との男遊びの事実は決して言えない。
言えば洋平は仰天するに違いないからだ。
そして俺は来年中には優紀子との離婚を視野に入れ、必ず千奈美と一緒になることを思っていた。
俺は小さい頃、信太郎が自宅に大量のワープロ打ちの文書を持ち帰ってきて、具(つぶさ)に目を通している光景を見たことがある。
考えてみれば、徒手空拳(としゅくうけん)で戦後の日本において今井商事を興(おこ)し、その事業でたった一代をもって財閥の主となった信太郎は完全な仕事人間だった。
俺はそんなことを薄っすらとではあるが覚えていたのだし、実際自分の歩んでいく人生が本来なら自由であるはずなのに、大学を卒業してから香原財閥の一人娘の優紀子と結婚させられ、今は大磯グループのドンである龍造の悪だくみに人生を狂わされるような思いをしている。
だが、香原財閥に健介が養子として入れば、ガンで死の床にある洋平はどう言うだろうか……?
快く、自分の作り上げた王国の継承者を出迎えるのか、それとも見放してしまうのか……?
俺は洋平には優紀子が興じる誠との男遊びの事実は決して言えない。
言えば洋平は仰天するに違いないからだ。
そして俺は来年中には優紀子との離婚を視野に入れ、必ず千奈美と一緒になることを思っていた。