ふわふわ
短編小説 ふわふわ

本編

私は、そのまま寝入ってしまったようだ。
 眠る前に何をしていたのか、今、思い出そうとしているのだが、窓から差し込む陽光が眩しくて、それどころではない。
「ああ、待てよ、私は、健太の餌を買いにホームセンターへ来るまで出かけようとしていたところだったのではないだろうか」
 おぼろげながら、たいした用事でもなかったのだと自分に言い聞かせ、つい寝入ってしまったことに対して反省をするのを取りやめた。
 ホームセンターへ行くのは、私にとっては一大事には違いなかった。
 家からホームセンターまで来るまで約1時間かかる。
 それに、今朝から降り続いている雪のおかげで、プラス20分ほど時間がかかりそうだ。犬の餌の他に、何か必要なものはなかったかどうか、ソファの上で天井を見上げたまま考えていた。すると、どうだろう。じっと見つめていた天井の、ちょうど、照明の脇あたりに見慣れない物体がフワフワと張り付いているではないか。
「ありゃ、なんだ」
 その物体は、私が今までに見たこともない形をしていた。蜘蛛に似ているが、体中から足が出ているといった具合で、どちらかといえば、タンポポの綿毛が丸いまま天井に張り付いているといった感じだった。
「タンポポか」
 きっと、タンポポの綿毛が、抜けずに、そのまま丸い状態で部屋の中に入ってきて、暖房の暖気の上昇で天井に張り付いているのだろう。私は、そう勝手に思い込んで、ゆっくりとソファの上に立ち上がって、その綿毛のかたまりを目を凝らして、よく見てみることにした。すると、私が近づくなり、いきなり、その綿毛が照明の脇から移動して、天井の隅に行ってしまった。
「なんでだ」
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