追憶のマリア
「応援はまだか??」


 俺は、無線の相手、青山さんに向かって苛立たしげに叫んでた。


「今向かってる。窪田…川嶋を絶対に死なすな!!わかったな!!」


 青山さんの怒鳴り声で俺の耳が痛んだ。


「わかったから速くしろっ!!」


 俺も無意識に怒鳴り返していた。


 応援が来るまで俺の腕がもつかどうか…


 せめて…


「せめて、どっちか一人ならなぁ…。」


 俺の心中を見透かしたようにれんが言った。


「でも…お前は俺を見殺しにはできねぇ…お前は任務に忠実だからな。そのせいで京子は死んだ。」


 俺はツラツラと不愉快なことをしゃべるれんを、殺してやりたいと思った。


 自分を睨みつける俺に、れんは少しおどけて見せ、続けた。


「いや、責めてんじゃねぇーよ。お前の判断は正しかったさ。それで何十万人もの民間人の命が救われたんだ。お前はヒーローだよ。」


 吐き気がした。


 人間は、精神が崩壊すると、こんなにも醜くなるものなのか…?!


 俺が一番言われたくない言葉を、言われると死にたくなるような言葉ばかりを、こうも無駄なく並べてくるとは…


 そしてれんは、銃を持つ右手を、俺がつかんでいる左腕に交差するようにして、彼女に銃口を向けた。


「そのお前の右手、離し易くしてやるよ。」


 れんは、彼女の右腕をつかんでいる、俺の右手に目をやりながら言った。


「お前が手を離して、彼女が死んだんじゃ心苦しいだろ?」


 れんはそう言って微笑んだ。




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