自分探しの旅
 京介はその重い書物に紙切れを挟むと、コピーを取りに向かった。静かな館内でコピー機の機械音が聞こえる。ふと周りを見渡すと、机に座って本を読んでいる老人、勉強している浪人生風の若者、ワゴンに本を載せて運んでいる係員・・・ごくありふれた風景があった。
 まさか自分が前世の記録を取っているなど誰も思わないだろう。誰でもいいから誰かにこのことを話したい。京介は、自分だけが世の中の重大な秘密を知っているような気分になった。そういうミーハー的な部分がある点で、哀しいかな京介はどこまでも平凡な人間だった。しかしその反面、心のどこかで自分の底の浅さに気づいていた。その心の底には閉ざされた扉がある。扉の向こうには何があるのだろう。
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