自分探しの旅
「こんなとき和尚様がいて下さったらなあ。」

 十禅寺の住職天寿和尚と供の者たちは出かけていて、あいにく留守だった。京の都の臨済宗の総本山へ円心を推挙するのが、今度の旅の目的だった。
 円心は、二晩看病をし続けていた。山伏が寝かされている寺の本堂には、薬草を煎じた匂いがたちこめている。
 山伏は、ようやく目を開いた。

 「ここは・・・」

 秋の夕暮れの日差しが格子ごしに山伏と円心をやわらかく照らしていた。

「ようやっと、気づかれましたな。」

 視点が定まらぬうつろな目は、円心をとらえるとふと我に返ったように見えた。
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