自分探しの旅
 円心の姿を見ていた円修は、箱の中から包みをとりだした。

「これは、和尚様が円心にと遺して下さったものだ。」

 そう言って包みを丁重にほどくと、中から書状が現れた。それは総本山への入門許可状だった。円心の才能を見抜いた天寿和尚は、やっとの思いで京の都の総本山へ円心を推挙することにこぎつけたのだった。

「和尚様は円心が帰ってきたらこれを渡すようにと言い遺された。」

「私は・・・私は、受け取る資格などありません。」

 円心は、鼻水まじりの涙声でそう言った。

「ばか者!」

 普段は温厚な円修の一喝が、本堂にひびきわたった。それは天寿和尚の声のようにも聞こえた。
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