ファーストキスは蜜の味。

「若林ちゃん?」

「あ、ごめんなさ…っ」

すっかり忘れてた白石さんの存在に気づき、あわてて笑顔をつくったのに、失敗した。

つくり笑顔って、どっかおかしくなるんだよね。


恭兄を引っぱたいた女の人は、顔を隠すようにあたしにお辞儀をして走りだした。

「おい、待てよ」


女の人を追うような呼び声が頭に響く。


あたしは、悔しくて、イヤで、お辞儀すらできなかった。

いまここにいるなかで、仲間だと思えるのは白石さんだけだった。


だって……
――…悲しそうな顔にいちはやく気づいて、あたしの頭をなでてくれてるんだもん。


落ち着こう。

“いま”を独占してる彼女をうらむのは、あたしの身勝手だから。

あたしも、まえに進もう。



「白石さん、また明日ね」

「……あ、あぁ。おやすみ」

「おやすみなさい」



あたしは恭兄をみることなく家に入った。

< 305 / 403 >

この作品をシェア

pagetop