凶宴の月
 戦いの場にあるとは思えないような静かな声が、悪魔の死神将とされる牙王ヴァンダインを呼ぶ。だが、臨戦体制に入った悪魔には聞こえないらしい。
 しなやかな若木のような青年は躊躇いもなく、持っていた宝石を掲げた。
 途端、ヴァンダインは、なにか強い力で引き摺られる。
 「ぐぁっ」
「だから、待てと言っているだろう、ヴァン」
「あのー、ミナギさん?」
「あれは俺が封じるの。お前は援護だけしてろ」
「そう言ってもね、あれは下級悪魔でも結構強い…」
「う・る・さ・い」
剣士としては小柄だが身のこなしは軽い黒髪の少年は、悪魔の訴えを一刀両断にした。
 「でもだからって、いきなり戦闘中に味方封印するか…?」
「真っ向勝負したら負けるだろうが」
あたりまえのことのように少年は言い切った。
 「おまえが色々と喋ってくれたお陰で、封印に必要な情報が得られて助かったよ」
名前などの情報がなくても、封印師の力が強ければ強引にねじ伏せて封印することはできる。だが、相手の方が力が上の場合は、封印どころか返り討ちにされかねない。ミナギは優秀な封印師であり剣士だが、さすがに死神将と謳われるヴァンダインを力でねじ伏せることは出来なかった。
 下級悪魔との戦闘の中で、ヴァンダイは実に様々なことを喋ってくれた。
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