君の瞳に映る色
素敵ですよ、お嬢様と
柊は微笑む。

「もう立派な淑女ですね」

慣れないハイヒールのパンプスを
履いた棗に柊は手を差し出した。
その手をとって
棗は車に乗り込む。
車はゆっくりと
今日の会場に向けて走り出した。


棗は緊張した面持ちで
ホテルのロビーを歩く。
5つ星ホテルとして
名の上がる事の多い
そのホテルの最上階が
今日の待ち合わせ場所だ。

今日会う人と結婚する、頭の中で
考えてみてもあまり想像が
つかなかった。
ただ結婚さえすれば菖蒲とは
離れることができる。
それは何となく嬉しいことに
思えた。

考えているとエレベーターの
ドアが静かに開く。
待ち構えていたレストランの
ボーイが頭を下げた。
軽い会釈をして棗はボーイに
続いて中へと入る。

中は従業員以外人がおらず
シンとしていた。
目を丸くしている棗に
ボーイが気付いて、
本日は東條様のご要望で
貸切でございます、と言った。

わざわざ貸切らなくても、
と思ったが人がいなければ
感情の色が見えて
気分が悪くなる事もない。
むしろその方がいいか、と
考える。




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