君の瞳に映る色

洗面台に向かう棗の背中を
さすりながらこの光景もそろそろ
見慣れてきたな、と玲は頭の中で
思った。

キスして吐かれたことを
根に持っている玲は、自分と魚は
同レベルか?などと考える。

苦しげに息をしながら棗が
ようやく顔を上げた。
青ざめた顔に赤く染まった唇が
以前も感じたように色っぽい。

自分の中に沸き起こる衝動を
玲は必死に抑えた。

棗の頬に掛かった髪を
掻きあげて玲は髪を撫でる。
そんな自分を棗は静かに
見上げていた。


「…ありがとう」


耳慣れない言葉に玲は
目を丸くした。
どうした、急に。と思わず
聞いてしまう。

棗は少し俯くと、
急に言いたくなったの、と
答えた。

少し照れたような顔で
棗は目を伏せた。

玲は髪から指を滑らせて
唇をなぞる。

棗の身体がビクンと震えた。


「力、抜けよ」

言いながら棗の腰に手を回して
自分の方へ引き寄せようとした時
外から女性の話し声が聞こえた。

ハッと顔を見合わせる。

「ちょっと!ここ女子トイレよ」

話し声と足音が近づいてくる。
玲は棗の手を引くと手前の個室に
入った。





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