君の瞳に映る色
玲が何も言えないでいると、棚の
間の通路を男性が通り過ぎる。

不思議そうにこちらをチラリと
見る男性を見送りながら、
背中を手で押して棗を促すと
図書館を出た。



無言でスーパーまでの道を歩く。

繋がれていない右手を
棗は寂しく感じた。

なんであんなことを
言ってしまったのか頭の奥で
理解していても
認めたくなかった。

櫂斗との事がたとえ
破談になってもいずれ家の為に
誰かと結婚するという事実は
変わりない。

持つだけ無意味な気持ちだった。


少し先を行く玲の背中を
見つめる。

苦しい。
さっきとは別の痛みが胸を刺す。

涙が零れないように
棗は顔を上げた。

歯を食いしばって涙を堪えながら
静かに玲の後を追った。









< 213 / 352 >

この作品をシェア

pagetop