世界と僕は戦っている きっと世界が勝つだろう
 どうやら彼女みたく、フェンスの向こう側へ行くのではないかと心配していたらしい。


 勿論そんな気はない。
 だけど森川の気遣いをバカバカしいとも思わない。

 きっとそれが普通の事だから。


「あの、長村」

「何?」

「長村は『世界』ってなんだと思ってる?」


 傍で聞いてれば壮大な問答のように聞こえる。
 だけど俺や森川、彼女と付き合いがあったクラスメイトや教師――、あの日に少なからず関わった人間にとって『世界』とは1つの符号だ。


 彼女が最期に言った言葉、「世界と僕は戦っている。きっと世界が勝つだろう」はそんな人間達共通のなぞかけだ。


「…俺が、分かってると思う?」


 ほんの少し自嘲を含んだ声色に聞いた森川は黙った。

 その沈黙に落胆は無い。
 寧ろ纏う雰囲気は俺に対してシンパシーを感じられた。
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