-境界リセット-
聞き覚えのある名前に顔を上げると、長身の男が立っていて。
「合ってる?」
と、質問というよりかは確認するように、小首を傾げた。
その仕草がまるで子犬みたいで、可愛いな、なんて私は笑ってしまった。
「え、あ、間違えた!?すいませんっ!!」
その男性は、私が笑ったのを見て途端に慌てだし、「やべ、ハズい」なんていいながら背を向けた。
そのまま立ち去りそうな様子に私も慌てて、
―彼の片手に一輪のひまわりがあるのを視界の端に見留めながら―
その男性に手を伸ばした。
「あ、のっ!!」
なんと声をかけたらいいか解らなくて、思わず肘の辺りを掴んで、ぐいっと引く。
「う、わっ!!」
それに男性はムリヤリ半身をこちらに向けた体勢でよろけて
「わわっ」
焦って支えようとした私に覆い被さった。
体がぐらっと傾く。
私が彼を支えるのには、明らかに無理があるのだ。
倒れる、と来るべき衝撃に備えて私が目を固く閉じたとき。
――ふわっ
と、甘い匂いが私の鼻先に漂った。