【天の雷・地の咆哮】
・・あなたを好きになるロカの気持ちが、少しわかるわ。
あのロカを“繊細”と表現するのは、世界広しといえど目の前にいるこの女性くらいだろう。
ニュクスは自分一人が心配して騒いでいるのが馬鹿らしく思えて、自嘲気味に笑った。
「そうね。
今は不利益な行為に思えても、長い目で見たら有益なものになるかもしれないわね」
「はい」
穏やかに笑うヴェローナ。
頷いた拍子に、ヴェローナの長い髪がさらりと流れる。
「空など飛んで何が有益になるのかわからないけど、
我らが王には、せいぜい死なない程度に頑張っていただきましょう」
ニュクスが皮肉げに片目をつぶると、
二人は、どちらからともなく声をあげて笑い出した。
これが二人にとって辛い試練の始まりだなどと、
ウェスタの神でさえ予想できなかったに違いない。
華やいだ明るい笑い声は、風に乗ってどこまでも広がっていった。