【天の雷・地の咆哮】
ヴェローナの話だとばかり思っていたので、
張り詰めた気が緩み、ニュクスは自然に肩の力が抜けた。
自分がいつになく緊張していたのだと、このときニュクスは初めて自覚した。
最後の一人が部屋を去ると、扉の閉まる音がパタンと響く。
扉の脇にかけてある手燭の炎が、ゆうらりと揺れて影を落とした。
二人の間に沈黙が落ちたのは、ほんの数拍のことだ。
すぐにニュクスは気を取り直して、まっすぐにロカを見つめた。
「それで、頼みとは?
夫となる方の頼みごととあらば、聞かぬわけにはいかないのでしょう?」
わずかに牽制の意を込めて、ニュクスはロカに言葉を投げる。
『結婚生活は、初めの主導権を握ることが大切ですよ』
ニナの台詞が、ニュクスの頭の中で反芻される。
・・そうよ。主導権を握るのは、私なんだから。
一族の期待を一心に背負う彼女が、知らず重圧を感じていたのは、
当然といえば当然のことだった。