【天の雷・地の咆哮】
はぁはぁと、息を切らして走る女の影が、夜の闇よりもなお濃い影を床に落とした。
その後ろを、同じように駆ける影がもう一つ。
「待て、ヴェローナ!」
男の大きな掌が、女の細い肩にかかる。
それを合図に、顔中を涙でくちゃくちゃにしたヴェローナが振り向いて声を発した。
「ユピテロカ様。ホーエンを、ホーエンをどうしたのです?」
しゃくりあげながら、ヴェローナは涙にぬれた瞳でロカを見上げた。
「心配するな。何も心配要らない。
ホーエンはちゃんと生きてる。明日自分の目で確かめればいい」
「でも、そのご様子は」
ロカの泥はねのひどい衣に目をやり、ヴェローナが声を詰まらせる。
「ホーエンは、俺にとっても大事な護衛兵だ。
俺を信じろ。悪いようには決してしない」