Chess
僕が打った瞬間、また早くも彼女の手が動いた。

ネイルのされてない、けれど桜貝みたいな爪が駒をつまみ、迷いなく下ろす。

黒のナイトが、b8からc6へ。

……なんだろう。二手とも、まったくの鏡写しだ。

ひょっとしてと思いながら、右のルークを、さっき空けたところへ進ませる。

h1からh3へ。

すると、また彼女は即座に駒を動かした。

案の定、h8からh6へ、黒のルークを。

鏡、か。

彼女がどんな作戦を考えているか知らないけれど、それは愚策だ。

まったくの鏡写しだと、どうしても後手のほうが不利なんだ。

いったい、どこで彼女はその拮抗を崩してくるつもりだろう。

ちらりと見やる。

手の甲に顎を乗せている彼女は、楽しそうだ。

ここは、攻めてみるか。

クイーンの正面にあるポーンを、一歩前へ、d2からd3へ動かす。

さあ、彼女はどう出るだろう。

今、僕のc1にあるビショップが、彼女のh6ルークを狙い撃ちできる。

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