とんでも腐敵☆パートナー
「父さんは少し体調が悪そうですね。どこか悪いところでも?」
 
「いいえ。ここのところ会社が忙しくて、疲れてらっしゃるみたい……。新薬の開発に力を入れてるらしくて、毎晩帰りも遅いのよ」
 
 俯き、顔を曇らせる母。
 
「また自ら開発に携わってるんでしょうかね。父さんは研究者肌ですから……」
 
 言って、紅茶を口に含む。
 
 父は製薬会社の社長だ。
 
 大企業という程ではないが、そこそこに有名な会社――『KY薬品』といえば、大抵の人は風邪薬を思い浮かべるだろう。
 
「そうね……経営者向きじゃないのよね、あの人は」
 
 母はくすりと笑って言った。愛情の垣間見える微笑みだ。
 
 俺の両親は傍目に見ても仲の良い夫婦なのだ。父の健康を心配する母の優しい瞳は俺が物心ついた時から少しも変わらない。
 
「庭も相変わらずですしね……」
 
 俺もつられて苦笑を浮かべてしまう。言いながら顔を向けた先にあるのは、既に先程十分視界に収めた草だらけの庭だ。
 
 窓の外に覗くそこ――ともすれば雑草が生え放題で手入れが行き届いてないようにも見えるその場所は、父の夢の箱庭である。
 
 もともと父は、一介の薬剤師だったそうだ。理想に燃える、研究熱心な薬剤師。
 
 会社を興したのは、夢の実現のために金が必要だったからだと聞く。
 
 だから母の言う通り、もともと経営者向きの人間ではないのだ、あの父は。
 
 庭で薬草を育ててる時が、一番幸せそうな顔をするあの父は。
 
 いつも楽しそうに、薬草について語って聞かせてくれた優しい父。敷地の半分を割いて作られた小さな夢の箱庭――父の夢は、大きな薬草園を持つことだった。
 
 
 
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